月夜見

   “思いも拠らない”  〜月夜に躍る]]V


某ちょっとだけSFまんが『どら○モン』には、
未来からやって来た猫型ロボットが提供する格好で、
様々な未来のグッズが登場する。
主人公が困り事へと音を上げるのへ、
便利グッズのようなノリで楽しい道具を出してもらうのだが、
本当にあったらいいのにと思うのはどれ?というアンケートを行うと、
若い人は頭に装着して空が飛べる竹トンボを推すのに対し、
少し歳がいったお人ほど、
どこへでも移動できるドアのほうをほしいと思うのだそうで。

   いやぁ、その気持ちは判ります、うんうん。
(苦笑)



       ◇◇◇


港を中心に栄えた とある商業都市がありまして、
まだまだ歴史も浅く、よく言って若々しい発展途上の街、
皮肉っぽく言やぁ…何やってこんなに急成長したんだかと、
厭味の一つも言われそうなほど、
ここ数年という本当に大層短いスパンで、
世界中にその名が通るほどの有名な街となった都市であり。
かつては単なる中継港でしかなかった土地柄から、
貿易商社の支社と貨物船の持ち主と、
そんな船が積んで来る荷物の積み降ろしを担当する、
港湾労働者とだけが住まわっていた、
色気もへったくれもない、何とも殺風景な都市だったものが。
ほんのちょっとした切っ掛けから、
どんと観光都市へ鞍替えしちゃった辺りのお話は、
ここまでの各逸話の冒頭にて、
イヤってほど繰り返しておりますので、
初見の方はそちらを参照にしていただくとして。(こらー)



この街の秘かなる有名人に、怪盗“大剣豪”という存在がいる。
大がついたりつかなかったりするのは、
手掛けた仕事、もとえ…盗みの規模の大小によって、
勝手にマスコミが使い分けているらしく。

 「そんな あだ名そのものからして、勝手な代物だってんだよ。」
 「まあまあまあ。」

見るからに不機嫌そうに、
下唇を突き出しての不貞腐れておいでの彼こそは、
噂の怪盗ご本人、ロロノア・ゾロという青年であり。
短めに刈った髪は、自毛だか染めたか鮮やかな緑色で、
だがまあ そのくらいは、
結構あちこちで見受けられるおしゃれの範疇内。
どのくらい着古しているものなやら、
随分と腰のなくなったトレーナーに、
ペンキや擦り跡が満載で、
わざわざ選んで買わずともこうなったという感の強い、
ダメダメ ダメージジーンズという、
まま、ここいらではさほど珍しくもない、
“働くおじさん、お兄さん”スタイルをしておいでで。

 「まあ、目立っちゃあ不味い立場だし。」
 「そうそう。」

特に不細工な風貌だということはない、
むしろ精悍で頼りになりそうな、男臭さに満ちたタイプの青年で。
ただまあ、気の利いた態度なり会話なりを持ち出せる性格は、
残念ながら持ち合わせてはいないので、
イマドキの女子にはあんまりウケは良くなさそう。

 「そこもまあ、
  誰かさんほど重要なポイントとは思ってないらしいし。」

 「何言ってるんだ、
  それこそ男として生まれて来た者が貫くべき、
  メインテーマじゃないか。」

 「“誰かさん”は黙ってて。」

ランチタイムが終わったのでと、
一旦“準備中”の札を出しての中休み中。
そんなグリル“バラティエ”に顔を集めていたのは、
遅いめのランチをここでとりつつ、仕事の打ち合わせをするのが定番な、
怪盗“剣豪”とそのブレインたちだったりし。

 「こないだのオパール奪還も上首尾だったじゃないの。」
 「その次の、ヤミ金の事務所襲撃もね。」

依頼主からの収入は ままほどほどのそれだったけれど。
世間からも快哉呼んだ大活躍だったし、

 「スポンサーからの御祝儀もたんと貰ったの、
  ちゃんと山分けしてやったのにね。」

 「あ、それで怒ってるんじゃないのか?」

 「いつの間にスポンサーなんか見つけやがったって?
  そんなの とっくの昔の話よ。」

今更そのネタで不機嫌なんじゃないってと、
レモンスカッシュに浮かぶロックアイスを、
きれいな指先に摘まんだストローでからからとかき回しつつ、
しゃあしゃあと言ってのけたのが、連絡担当のナミならば、

 「あれじゃね? 昨夜の酒が抜けてねぇとか。」

グラスを磨きつつ、しれっと言ってのけたのが、
ここ“バラティエ”の若きオーナーにして、
この街を有名にした功労者のサンジという名シェフ殿だが、

 “…勝手なことを言ってんじゃねぇよ。”

きっちり聞こえてんだよと、
自分の態度へ“あーでもない こーでもない”と
好き勝手な見解を並べてくださっておいでの仲間らへ、
ますますのこと、つむじを曲げておいでの怪盗様ご当人。
彼ら“外野”がどうのこうのと並べてるあれやこれやは、
こちらのご当人にとって、実は…はっきり言ってどうでもいいこと。
そりゃあまあ、
自分の働きをネタにして、
自分が及び知らないところで勝手に稼いで貰っちゃあ困るが、

 『何 言ってんの。
  あんたが受ける依頼のほとんどは、
  二進も三進もいかなくなった人からってのが大半じゃない。』

原則は、奪ってほしいものの価値への、
相場の3倍の依頼料が要る…ってことになっているが。
原価はそんなに高価じゃないとか、
一緒に持って来てしまった裏帳簿が
十分 料金の代わりになるからとか言っては、
さほど頂かずにオーライとしてしまう事案が多すぎる。

 『せめて、
  帳簿の持ち主に
  10倍の値で引き取らせるって形にすりゃあいいところを。』

それもやんないで、
警察とか適当な週刊誌や新聞社のデスクへ
コピーを送りつけたりしてるようじゃねぇと。
今時はやらない種類の“正義漢”ぶってるところを
徹底的につつき倒された末に、
スポンサー様の存在をナミから認めさせられて、
もう随分となるのだし。

 “二日酔いなんて、生まれてこの方 一度だって縁がねぇよ。”

こちとらウワバミで鳴らした豪傑だと、
やっぱりきっぱりと反論を並べておいでの怪盗様。
だって言うのに、じゃあ何で、
今にも吠えたて出しそうなほど、
眉間にしわ寄せ、口許尖らせてという、
判りやすいにも程があるご面相でいるのかと言やあ、

 “何で捕まらねぇかな、あいつ。”

そう。
仕事の相棒、つか、一番弟子として、
自分へうるさいくらい構いつけてやまぬ
ルフィくんが、このところなかなか捕まらない。
いつもは“どんな仕事でも声かけろ”ってうるさいくらいなのに。
この何日か、
仕事の打ち合わせの連絡を入れても、
何だか慌てているか、逆に上の空かで素っ気ないし。
出先に目星つけて出掛けていっても空振るばかりで捕まらないわ。

 『…それって、これまでと逆じゃんよ。』

技術的なあれこれで話が合うらしい、
メカニック担当のウソップとも、
このところは連絡を取ってるようでないらしく。
何でこうも捕まらないかと ぼやいたところが、
希代の天才メカニックマンは、
苦笑交じりにそうと言い、

 『そっか、お前、追われるとウザイと思うクセに、
  逃げるもんへはあっさり釣られるタイプだな。』

 『………うっせぇよ。』

呵々と笑った旧友に、不貞腐れて応じたものの、
言われてみればそうかも知れぬと、
意外な格好で自分の性分まで判ったのは、まま置いといて。

 “何やってるかな、あいつはよ。”

昨日、何とか姿を見かけた、
通学途中だったらしいブレザー姿の一番弟子さんは、
その両手のあちこちへ絆創膏を貼っていた。
あれで喧嘩で引けを取る子じゃなし、
いじめにも縁がない人気者だし、
じゃあ何でまたあんな怪我を…と思ったものの、
その彼を溺愛している実の兄が、さして恐慌状態にはなってない以上、
見た目ほど大したことはないのかも知れず。

 “…いや、
  こやつには気づかせまいとしているのかも知れないが。”

ハロウィンが近いし、秋といえば…で食材が豊富な分、
メニューを増やした反動か、予約も多くての、
このままクリスマスまでは休日なしのフル稼働状態だとか。
そんな彼なので、
女性と並ぶほど大事にしている弟のルフィじゃああるが、
彼の側が巧妙に隠したなら、
日頃とは微妙に注意力も散漫なお兄様を、
ひょいと誤魔化すのは案外楽勝なのかも知れず。

 “ だぁ〜〜〜〜っ。”

だがだが、だったら、
もっと鈍感な自分じゃあ、
何やってる坊やなのかなんて、
探れるはずがないんじゃなかろうか。
そうと認めるのがまた癪なもんだから、
何とも腹だたしくっての、イライラの堂々巡りをなさっておいで。
ううう〜〜〜っと唸りながら頬杖ついて、
何を見るともなく、壁を見やっておいでの彼だが。
そこに掛かっているカレンダーを見て、何にも気づかないものか。

 『ゾロのこったから、
  自分の誕生日もうっかり忘れてるに決まってる。』

  だから、こそこそする必要はないのかも知れねぇけどさ。
  そんでも…気がついたら、
  余計なことはよせとか言い出しかねねぇしよと。

 “あのルフィがそんな気を回してんだものなぁ。”

鈍感さじゃあ、
あの野暮天を悪し様に言えないくらいのいい勝負だったはずが、
どこか悩ましげな吐息をついちゃあ、

 『甘いのがダメで酒好きでってのは、判ってるんだけどもさ。』

そんでも何か手作りしたものをプレゼントしたい。
でもでも、裁縫も工作もイマイチ得意じゃねぇし、
PCソフトとかプログラムじゃあ、触りもしねぇだろうしさ…なんて。
なかなか…どころか、物凄く的確に、
あの朴念仁な怪盗さんの気性を掴み切ってる坊ちゃんであり。

 『料理じゃあサンジに敵いっこねぇし。』
 『そうでもなかろ。』

いつぞやケーキを焼いたこともあったのだからと、
謙遜しなさんなと励ましてから、

 『そうさな、
  確かにああいう奴には、
  形があって残るものってのは向いてねぇのかも知れん。』

徹夜でセーターを編みましたとか、
限定品を頑張って買いましたって渡したところで、
意味も考えないまま、要は有り難がらねぇだろうから。
あっと言う間に失くすか壊すか、
他のと同じ扱いしちまうとこだろうしな…と。
そんな風に解析した上で、賛同してくれたお兄様直伝、
酒好きの辛党でも大丈夫な、
ハッカの利いた飴細工の乗っかった、
ハードビターな ブラウニーケーキを焼く特訓中なのであり。


  待ってろ、怪盗! 覚悟しな!


  …………う〜ん、ちょっと違うかも。
(苦笑)





   〜Fine〜  11.10.28.


  *枕と内容が微妙にズレまくっててすいません。
   見解の相違というか
   どっかズレ合ってる人たちということで…。

   そして、判りにくいかもしれませんが、
   ちょいと気が早いながら、
   間に合わないよりマシかと思いましての、
   ゾロ誕 第一弾! 作品だったり致します。
   ………確かに早いなぁ、うんうん。
(こら)

ご感想はこちらへvv めーるふぉーむvv

back.gif